色とりどりの花と










その草原に探していた貴方はいた。いつものように機械に囲まれながら其処にいる彼を見つけると彼の元に走った。

嬉しさを抑えきれずに口元から笑みが漏れる。そして彼の隣に座ると、今日は晴れて良かったねと話しかけた。彼は相変わらず機械いじりに夢中な

ようで、表情をあまり変えずにそうだねと空返事を返した。毎日毎日朝から晩まで機械いじって飽きないんだろうかコイツは。









「何してるの?スパナ」



………それ道具のスパナ









ちっ、さすがに流さなかったか。

いいじゃん、どうせどっちもスパナなんだし。どうせこっちを向いてくれないんだったらまだ正面で見つめられるスパナのほうが話しがいがあるっても

んさ。でも、彼は機械いじりをやめてこっちを向いてくれた。ただ、それだけのことなのに凄く嬉しい自分がいる。くそう、惚れた弱みってやつか。









「で、何してるのスパナ?」



「キング・モスカの整備」







キング・モスカって・・・このキュインキュインなんて怪しげな音を出して何かをジャッジしてるようなすんごく微妙な体型のこのデカブツ?

なんか凄く怖いんですけど。私はこんな奴に今負けているのか。なんだかとても腹ただしくなってきたのでちょっとふざけてみることにした。








え?モスラ?



モ ス カ







あははーやだなー。そんなの見ればわかるってばー。ちょっとムキになった子供のように、彼はそれだけ言うとまた作業に戻った。

いつものことだけど、今日はさらに腹ただしく感じる。はぁ…とため息をついてムスッと拗ねてみると、珍しく彼から話しかけてきた。











「ここの計算式が上手くいかないんだ。そのせいで左右のバランスがとりにくい状態だ。」



「へぇー大変なんだねー」



「まぁ、には関係ないことだけど」



ほー喧嘩売ってんのか。



「別に」








どうせ私は勉強できませんよーだ。数学なんて苦手科目の中でもダントツだし。そもそも高校の時の成績表なんてそりゃもうすんばらしかった。

もう、親が泣いて泣いて泣いて、宇宙に飛ばしますって言うぐらいの成績だった。










「ねぇ、魔方陣教えてよスパナ」







そう言って私は四次元ポケット風に一枚の紙をどこからともなく取り出して彼に手渡した。

彼は何も言わずにソレを受け取って目を通し始めたが、それも数秒のこと。「何やってんだよ、ここはこう。大体、魔方陣って言うのは9つの数字が…」

などと熱く語りだした。しまった、コイツはこういう話になると燃える男になるんだった。マシンガントークが続く中、少し耳を傾けてやると聞こえてくるの

は駄目だしばかり。ちくしょー今に見てろよこのロボオタクが。いつかきっと目にもの見せてくれる!









「聞いてんの?」




もういいよロボ男




「ろぼお?」







日本語の漢字交じりの省略では彼にはどうやら通じなかったらしい。何度かその言葉を呟きながら賢明に考えている姿がどことなく可愛い。

首を傾けながらこっちを向く彼は上目遣いだった。やばい、死ぬ。マジで死ぬから。







「気にしないで」


「そうか」






いや、気にしろよ。そこ気にしろよ。ってかさっきから何度も呟いて気になってたんじゃないのか。そんな疑問がよぎるも、

こうさっぱりした性格を持つ彼には一向に無駄と言うものだろう。ここはサラっと流しちゃうことにした。

すると今度は彼が一枚の紙をどこからともなく取り出した。お前もなかなかやるじゃねぇか。








「何その紙・・・・すはな?」



「パ。スパナ」







取り出した紙に書いてあったのは漢字・・・《酢花゜》だった。

あ、ほんとだ。花の横にちっちゃく丸がついてる。








「あぁ、あて字か、って《゜》って・・・」



「気にするな」



気になるわぁ!ボケェエ!!!!






バシコーン

さっきから持っていた魔方陣のうんたらかんたらの紙を手ごろなぐらいに丸めて彼の頭をおもいっきりドツいた。

はっ!しまった。あまりにマイナーなボケをかまされたからついナチュラルに突っ込んでしまった。

彼はいきなりの私の突っ込みが予想できなかったようで、体制を崩し、腕が何かのボタンを押した。



ポチッ




バシャァァァァァァァァアアア











「ビショビショだ。」



何がだ。主語をつけろ主語を。



「キング・モスカ」






彼が押したのは水が出るホースのようなもののスイッチで、

ちょうどスイッチの近くにいた彼は水浸しにはならなかったものの、その水が出る近くにいたモスカと私はビショビショにぬれた。

モスカ・・・か、わかってはいたのにやはり悲しくなる。彼には私なんかよりモスカしか見えてないんだ。

いつかは彼は私のことなんて欠片も覚えていないぐらい忘れてしまうんじゃないか。そんな不安で押しつぶされそうになる。



突然、優しい目で見つめられた。








「………ぬれたのか?」



「え?う…うん。」



「これを貸してやる」







それはまるで魔法のような言葉だった。一瞬のうちにさっきまでの不安が消え去ってゆく。

心の中に何か実体のない暖かいものがこみ上げてくる。彼が差し出してくれた上着を着ると、感じる人のぬくもり。













「何?」



「やっぱりダボダボか。」



「ちょっと、人が感動している時に水をさすのやめてくれない?」







今ちょっと期待したのに。何か甘い言葉でも言ってくれるんじゃないかって。そんな期待をした自分がまるで馬鹿のように思えてくる。

とりあえず、「水をさす?水はささらないぞ?」何て言ってくるコイツをどうにかしたい。













「そういえば今日、誕生日なんだろ?」











彼はいつも突然に私が一番望んでいた言葉をくれる時がある。

今だってそうだ。私はこの言葉を今日聞きたかったからココに来たのだ。ココなら彼がいるとわかっていたから。

ただ、いつもとは限らない。本当にたまに突然に。そんな彼に惚れた私がいる。








「花。」



「花?」



「花を渡そうと思ってたんだに。でも、ウチ花束とか買いに行ったことないから。だから…」






どきり。







「だから、モスカで花を摘みあげてブーケをつくってみた。受け取ってくれ」



って、モスカで花渡すなー!!手渡しでしろー!!







「誕生日、おめでとう











そのブーケの数がまた数え切れないぐらい多くて、その数がまるで貴方の不器用な愛をかたどっているみたいに思えてくる

色とりどりの花と
貴方とそれからキング・モスカ






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MDS様2周年記念企画のお題夢「099:色とりどりの花と」をREBORN!スパナ夢で。(ギャグ甘)

by破滅の歌/麻塔春未